【免疫不全】T細胞を教育する「胸腺」作製成功
京都大学iPS細胞研究所の浜崎洋子教授らの研究チームは、免疫細胞の教育機能を担う「胸腺」組織を、人のiPS細胞から作製することに成功した。胸腺は心臓の近くに位置し、T細胞に病原体を攻撃する能力と自己免疫を抑制する性質を教える重要な臓器である。思春期に最大化し、加齢とともに急速に萎縮するため、高齢者では免疫力の低下や感染症・がんへの抵抗力が弱まる要因とされている。
今回の研究では、iPS細胞から胸腺の一部細胞を作製し、未熟なT細胞と2週間培養することで、直径1ミリほどの胸腺様組織が形成された。この組織内でT細胞が成熟し、病原体を攻撃する細胞や免疫の司令塔となる細胞へと分化することが確認された。
この成果は、先天的に胸腺機能が弱い免疫不全症患者への新たな治療法の可能性を示すものであり、加齢による免疫力低下への再生医療的アプローチとしても期待されている。浜崎教授は「高齢者の免疫力を再生させる医療の実現につながる可能性がある」と述べている。
また、国立がん研究センターの西川博嘉分野長は「胸腺組織は体外に取り出すと機能を失いやすいが、iPS由来の細胞は安定培養が可能で、胸腺の機能解明に貢献する」と評価している。
この研究成果は、国際科学誌に掲載され、再生医療と免疫学の融合による新たな治療戦略の扉を開くものとして、国内外の注目を集めている。
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