【理事長ブログ】脊髄損傷治療の最新成果をご紹介
iPS細胞が切り開く未来:脊髄損傷治療の最新成果をご紹介します!
こんにちは。今回は、再生医療の分野で注目を集める「iPS細胞」を使った、脊髄損傷治療の最新ニュースをご紹介します。2025年3月に慶応大学から発表されたこの成果は、「もしかしたら将来、怪我による後遺症の治療が可能になるかもしれない」と希望を感じさせる内容です。少し長くなりますが、ぜひ最後までお付き合いください。
脊髄損傷ってどんな病気?
まず、脊髄損傷について簡単に説明します。脊髄は、背骨の中を通る神経の束で、脳からの命令を体に伝えたり、体の感覚を脳に届けたりする大切な役割を担っています。でも、交通事故や転落などで脊髄が傷つくと、手足が動かなくなったり、感覚がなくなったりする「麻痺」が起こります。
例えば、首のあたりで脊髄が損傷すると、両手両足が動かなくなる「四肢麻痺」になります。胸や腰のあたりだと、下半身が動かなくなる「下肢麻痺」になることが多くあります。残念ながら今の医学では、傷ついた脊髄を完全に治す方法がまだ見つかっていません。リハビリで少しでも機能を保つ努力をするのですが、「元の生活に戻りたい」という願いを叶えるのは難しいのが現状でした。
iPS細胞って何?
そこで登場するのが「iPS細胞」です。iPS細胞は、私たちの体の細胞(例えば血液や、皮膚などの細胞)を特殊な方法で「リセット」して、体のどんな細胞にもなれる「万能細胞」に変えたものです。2006年に日本で開発され、2012年にはノーベル賞を受賞した技術です。
このiPS細胞を使うと、例えば「神経の細胞が損傷を受けてしまったから、iPS細胞から新しく神経の細胞を作って補う」というアイデアが生まれます。まさにSF映画のような話ですが、これが現実になってきたのです。
慶応大学の挑戦:脊髄損傷にiPS細胞を
慶応大学医学部のチームは、iPS細胞を使って脊髄損傷を治療する研究を長年進めてきました。そして、2019年に厚生労働省から臨床研究の開始が許可され、実際に患者さんに治療を試す段階に入っています。
この研究では、事故などで脊髄を傷つけてから2~4週間以内の「急性期」の患者さんを対象にしています。しかも、かなり重症で、感覚や運動機能がほとんど失われた状態の方々です。なぜかというと、こうした重いケースで効果が出れば、治療の可能性がよりはっきりわかるからです。
治療の方法を紹介します。まず、iPS細胞研究所から提供された「他人のiPS細胞」を使います。この細胞を研究室で「神経前駆細胞」という、神経細胞になる手前の状態に育てます。そして、約200万個の細胞を、患者さんの損傷した脊髄に注射で注入するのです。イメージとしては、「壊れた神経の橋を修復する材料を届ける」感じです。
2025年3月の発表:驚くべき成果が!
そして、2025年3月21日、日本再生医療学会で大きな発表がありました。これまでに4人の患者さんにこの治療を試した結果、2人の方が運動機能を取り戻したのです。
具体的には、次のような変化が:
- 自分で食事ができるようになった。
- 自分で立つことが可能になった。
さらに、感覚も少し戻ってきた人もいます。例えば、「触られた感覚」や「痛みを感じる」といった感覚が戻りました。このような変化が、これまで「もう動けない」と諦めていた患者さんにとって、どれだけ嬉しいことか想像できますよね。
しかも、安全性も問題ありませんでした。移植してから1年間観察したところ、細胞ががん化したり、大きな副作用が出たりすることもありませんでした。当初、iPS細胞を使った治療では「がんになるリスク」が心配されていましたが、この研究ではその課題も問題がありませんでした。
どうして効果が出たのか?
研究チームによると、移植した細胞が脊髄の中で新しい神経のつながりを作ったり、損傷した部分の炎症を抑えたりした可能性があるそうです。ただし、「すべてがiPS細胞の効果とはまだ断定ができず、もしかしたら部分的には自然な回復であった可能性があるとのことです。これから引き続き詳しく調べる必要があるとしています。
これからの夢と課題
この成果に、研究チームは大いに励まされたそうです。今後はもっと多くの患者さんを対象にデータを集める計画です。2025年のうちにはさらに治験を進めて、2020年代後半には国に対してこの治療を正式に認めてもらうよう申請する目標を立てています。
将来的には次のようなことが期待できます:
- 重症度の違う患者さんにも治療が広がる。
- 事故から時間が経った「慢性期」の人にも応用できるかもしれない。
一方で、課題もあります。
一番大きいのは「治療費用」です。この治療は、1人当たり数千万円かかるといわれています。最先端の科学技術を駆使するためにとても高額です。すべての国民がこの治療を受けられるようになるには、コストを大幅に抑える必要があります。さらに、細胞の品質を落とさずに保管、管理したり、長期にわたる効果や安全性を確認することも大切です。
おわりに
脊髄損傷を経験した方やそのご家族にとって、「治るかもしれない」というニュースは大きな希望だと思います。まだ研究段階であり、すぐに治療を受けられるわけではありませんが、慶応大学のこの研究成果は、われわれに「再生医療が現実のものになりつつある」と実感させてくれます。
iPS細胞の技術は、10年前には夢物語でしたが、今では患者さんの生活や運命を変える可能性を秘めています。慶応大学の発表は、その大きな第一歩です。
これからも再生医療の進歩をブログでお伝えしていきますので楽しみにしていてください。