iPS細胞でパーキンソン病に希望の光 – 科学雑誌「Nature」掲載記事より –
iPS細胞から神経細胞を生成し、脳に移植する試みが進んでいます。
主な進展
- パーキンソン病患者に対する脳移植に関する臨床試験が終了しました。
- 現在まで、パーキンソン病の根本的な治療法は確立されていません。
- 有効な治療法として、2025年に国への承認申請を予定しています。
パーキンソン病とは
パーキンソン病は、身体の動きが円滑でなくなる神経疾患です。近年、iPS細胞を用いた新たな治療法が注目されています。2025年4月、京都大学の研究チームは、「iPS細胞から作成した神経細胞をパーキンソン病患者の脳に移植する」実験が良好な結果を得たと発表しました。このニュースは、患者やその家族に大きな希望をもたらしています。
パーキンソン病の概要
パーキンソン病は、脳内の「ドーパミン」を生成する細胞が減少することに起因します。ドーパミンは、身体の動きをスムーズにし、気分を向上させる重要な役割を担っています。この物質が不足すると、以下のような症状が現れます:
- 手の震え:静止時に手や足が震える
- 動作の遅延:歩行やボタンをかけるのが困難になる
- 筋肉の硬直:体が硬くなり、動かしにくくなる
- バランスの悪化:転倒しやすくなる
また、睡眠障害や気分の落ち込み、物忘れが増加することもあり、日常生活に支障をきたすことがあります。
日本における患者数
日本では、パーキンソン病の発症率は1000人に1〜1.5人程度とされています。2020年のデータによれば、約20万人の患者が存在すると言われています。高齢化が進む中で、この数は今後も増加する可能性があります。
発症年齢
パーキンソン病は主に50歳以上で発症し、特に60〜70代に多く見られます。しかし、約5人に1人は50歳未満で、10人に1人は40歳未満で発症することもあります。これを「若年性パーキンソン病」と呼び、若年者の場合は遺伝的要因が関与することが多いです。
性別による差
パーキンソン病は男性にやや多く見られ、男性:女性の比率は約1.5:1です。男性に多い理由は未だ明確ではありませんが、ホルモンや生活環境が影響している可能性があります。
現在の治療法
残念ながら、パーキンソン病を完全に治す方法は存在しませんが、症状を軽減するための様々な治療法があります。
- 薬物療法:主に「レボドパ」が使用され、脳内でドーパミンに変換され、動きをスムーズにします。ただし、長期間使用すると効果が減少したり、無意識に体が動くことがあります。
- 手術療法:薬が効果を示さなくなった場合、「深部脳刺激療法(DBS)」が選択されることがあります。これは、脳に小型デバイスを埋め込んで電気刺激を与えることで、震えや筋肉の硬直を軽減します。
- リハビリテーション:運動やストレッチを通じて身体を動かす練習や、言語・嚥下のトレーニングが行われます。
- 生活習慣の改善:定期的な運動、バランスの取れた食事、十分な睡眠は、症状の軽減に寄与します。
予後について
パーキンソン病は進行性の疾患であり、診断後10〜20年で動きが著しく困難になることがあります。しかし、早期に治療を開始することで、長期間にわたり健康的な生活を維持できる患者も少なくありません。特に若年発症者は進行が遅い傾向がありますが、後年に発症した場合や認知症を伴うと、状況が厳しくなることがあります。寿命は一般の人とほぼ変わらないことが多いですが、転倒や肺炎のリスクには注意が必要です。
科学の雑誌「Nature」掲載
2025年4月、京都大学の研究チームは、パーキンソン病患者7人に対するiPS細胞から作成した神経細胞の移植実験の結果を発表しました。この実験では、他者由来の細胞から作成したiPS細胞を使用し、ドーパミンを生成する神経細胞を患者の脳に移植しました。2年間の経過観察の結果、6人の患者でドーパミンの生成が確認され、4人の患者では動きの改善が見られました。大きな副作用もなく、安全性も確認されました。
このニュースは、科学雑誌「Nature」に掲載され、世界中で注目されています。移植した細胞は他者のものであったため、免疫抑制薬が必要でしたが、成功したことは非常に意義深いです。
ドーパミンの重要性
パーキンソン病は、脳の「黒質」におけるドーパミン生成細胞の減少が原因です。ドーパミン不足は、身体の動きをコントロールする「線条体」の機能不全を引き起こします。iPS細胞から作成した神経細胞は、このドーパミンを補充します。今回の実験では、移植された細胞がドーパミンを効果的に生成し、脳のPETスキャンで確認されました。これは、症状を軽減するだけでなく、脳機能を回復させる治療の第一歩です。
安全性と効果
移植細胞の安全性については、癌化や感染症、ドーパミン過剰による自発的な運動などの問題は発生しませんでした。これは、細胞が丁寧に作られ、悪性細胞が混入しないように配慮された結果と考えられます。
効果に関しては、7人中4人の患者で動きの改善が確認されました。具体的には、歩行速度が向上したり、手の震えが減少したりした例がありますが、2人にはあまり変化が見られませんでした。研究者は、患者の病状や細胞の定着状況の違いが影響していると考えています。
患者と家族の反応
このニュースを受けて、患者やその家族は非常に喜んでいます。SNSでも、「iPS細胞の進展に驚いている!」「未来が明るくなるかもしれない!」といった声が多く寄せられています。しかし、「まだ7人だけなので、さらなるデータが必要」「効果が長続きするか心配」という意見も存在します。今後の研究の進展が期待されます。
次のステップ
今回の実験は、まず安全性を確認するための第一歩でした。今後は、より多くの患者を対象にした大規模な実験が行われる予定です。これにより、効果の程度や、どのような患者に対して効果が見込まれるかがさらに明らかになるでしょう。また、以下のような計画も進行中です:
- 自己細胞の利用:現在は他者の細胞を使用していますが、患者自身の細胞から作成したiPS細胞を用いることで、免疫抑制薬が不要となります。アメリカでは既にこの方向での研究が進んでおり、日本でも同様の取り組みが行われています。
- 長期的な経過観察:移植した細胞が5年、10年と持続的に機能するか、癌化しないか等の継続的な監視が必要です。現在のところ、2年間は問題がありませんでしたが、長期的なデータの蓄積が求められます。
残された課題
iPS細胞治療が普及するためには、以下の課題を克服する必要があります。
- コスト:iPS細胞の生成には高いコストがかかります。より安価に作成する方法や、保険適用を目指すことが、広く普及するためには重要です。
- 個々の治療内容の選択:パーキンソン病は患者によって症状や進行具合が異なるため、移植する細胞量を個々に合わせることが大切です。AIを活用して、最適な治療法を見つける研究が進行しています。
社会や患者に与える影響
iPS細胞治療が一般化すれば、パーキンソン病患者の生活がより快適になるでしょう。震えや硬直が軽減され、仕事や趣味を楽しむ余裕が生まれるかもしれません。また、介護や医療費が減少すれば、家族や社会の負担も軽くなります。日本はiPS細胞研究で世界の先頭を走っているため、この治療が広がれば他国にも良い影響を与えることが期待されます。
さらに、iPS細胞はパーキンソン病だけでなく、アルツハイマー病や外傷による運動機能障害の治療にも応用できる可能性があります。今回の成功は、さまざまな病気の治療に向けた第一歩となるかもしれません。
結論
iPS細胞を用いたパーキンソン病の治療は、京都大学の最新の研究によって大きな進展を遂げました。ドーパミンが効果的に生成され、患者の動きが改善されたという事実は非常に重要です。しかし、依然として課題が残っており、さらなる研究が求められます。患者、家族、研究者、医療機関が協力し、この治療法が改良され、健康寿命が延びることを願っています。
参考資料
- 京都大学iPS細胞研究・応用センター(CiRA)および京都大学病院の発表(2025年4月17日)
- 科学雑誌「Nature」の記事(2025年4月16日)
- 日本神経学会のパーキンソン病ガイドライン
- パーキンソン病に関するデータ(アメリカのパーキンソン病財団、2024年より)
研究グループ
住友ファーマ(日本)、京都大学(日本)
参照
2025年1月14日、11時34分 日本放送協会(NHK)配信ニュース