【院長ブログ】アトピー性皮膚炎に対する幹細胞培養上清液治療

アトピー性皮膚炎は、かゆみや乾燥、赤みが持続することで、日常生活に大きな影響を与え、患者様の生活の質を著しく低下させることがあります。近年、再生医療の分野で注目されている「幹細胞培養上清液」を使用した治療法が、新しい選択肢として期待されています。ここでは、アトピー性皮膚炎の基本的な特徴から、この治療法の仕組み、そして現在の研究状況までを、わかりやすくご紹介いたします。

アトピー性皮膚炎とはどのような疾患か
アトピー性皮膚炎は、皮膚の乾燥、強いかゆみ、赤み、湿疹を特徴とする慢性疾患です。多くの場合、幼少期に発症し、思春期や成人期まで症状が続く方も少なくありません。皮膚には本来、外からの刺激やアレルゲン(ダニ、花粉、汗など)を防ぐバリア機能があります。しかし、アトピー性皮膚炎ではこのバリア機能が低下しており、外部刺激が皮膚内に侵入しやすくなります。その結果、免疫システムが過剰に反応し、炎症が繰り返し起こります。

特にかゆみが強いため、無意識に掻いてしまうことが多く、掻くことでさらに皮膚が傷つき、バリア機能が悪化するという悪循環に陥りやすいのが特徴です。このような状態が長く続くと、睡眠障害やストレス、集中力の低下など、心身ともに負担が大きくなります。

従来の治療法
従来の治療は、主に保湿剤によるスキンケア、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などの免疫抑制外用薬、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬の内服、そして重症例ではデュピクセントなどの生物学的製剤が用いられます。これらの治療で多くの患者様が症状をコントロールできていますが、一部の方では十分な効果が得られなかったり、副作用を懸念されたりする場合もあります。そこで、皮膚の根本的な改善を目指す新しいアプローチとして、幹細胞培養上清液が注目されているのです。

幹細胞培養上清液とは
幹細胞とは、体のさまざまな組織や細胞に変化できる特別な細胞です。代表的なものに、間葉系幹細胞があります。これは骨髄、脂肪組織、臍帯、歯髄などに存在し、損傷を受けた組織の修復を助ける役割を果たします。
幹細胞を無菌的に培養する過程で、細胞自体は増えていきますが、同時に多くの有用な物質を周囲の培養液に分泌します。これらの物質には、成長因子(細胞の増殖や分化を促す因子)、サイトカイン(免疫調整や抗炎症作用を持つ因子)、エクソソーム(微小な小胞で情報伝達を担う)などが含まれます。この分泌された成分だけを集め、細胞本体を除去した液体が「幹細胞培養上清液」です。
従来の幹細胞治療では、幹細胞自体を点滴で投与する方法が主流でしたが、上清液を用いるメリットは、細胞を直接入れないため拒絶反応や腫瘍化のリスクが低いことと考えられています。また、製造過程の管理がしやすく、品質の安定性が高いことも特徴です。投与方法は点滴静注、外用(塗布)、場合によっては局所注射など、患者様の状態に応じて選択されます。

幹細胞培養上清液がアトピー性皮膚炎に期待される主な作用

  1. 1,炎症の抑制
    アトピー性皮膚炎では、免疫細胞が過剰に活性化し、炎症性サイトカインが大量に放出されます。上清液の成分は、これらの炎症シグナルを抑え、皮膚の赤みや腫れを鎮めます。
  2. 2,免疫バランスの調整
    アトピー性皮膚炎では、Th2型の免疫反応が優位となり、アレルギーを増幅します。上清液はTh2反応を抑制しつつ、制御性T細胞を増やして免疫のバランスを整えます。これにより、IgE抗体の産生が減少し、アレルギー反応の軽減が期待されます。
  3. 3,皮膚バリア機能の修復
    セラミドやフィラグリンなどの保湿成分の産生を促し、角質層の構造を強化します。また、ケラチノサイト(表皮細胞)の分化・増殖をサポートし、損傷した皮膚の再生を助けます。

    これらの作用により、単なる症状の抑え込みではなく、皮膚の根本的な体質改善が期待できると考えられており、この点は上清液治療の大きな魅力です。

現在の研究状況と臨床での位置づけ
動物実験では、複数の研究で明確な効果が報告されています。例えば、乳歯歯髄由来や臍帯由来の上清液をアトピー性皮膚炎モデルマウスに投与したところ、皮膚の炎症スコアの低下、かゆみ行動の減少、バリア機能の回復が確認されています。また、ヒト由来の間葉系幹細胞上清液を用いた研究でも、同様の抗炎症・組織修復効果が示されています。

ヒトでの臨床研究はまだ小規模なものが中心ですが、皮膚の保湿力向上、経表皮水分喪失量の減少、炎症の軽減などの改善が報告されています。日本国内でも、大学病院や専門クリニックで臨床研究や先進医療としての提供が進んでおり、安全性に関するデータが蓄積されることも期待します。

現時点では大規模なランダム化比較試験が十分ではなく、保険適用外の自由診療となる場合がほとんどです。上清液治療を単独で行うのではなく、従来の標準治療(保湿、ステロイド外用、生物学的製剤など)と適切に組み合わせ、皮膚科学専門の医師により患者様一人ひとりの症状に最適なプランが提案されることで治療の可能性が飛躍すると考えられます。

おわりに
アトピー性皮膚炎は、長期にわたる管理が必要な疾患です。これまで多くの治療法が開発されてきましたが、完治が難しいケースも少なくありません。幹細胞培養上清液は、炎症抑制、免疫調整、皮膚修復という多角的なアプローチで、新しい可能性を示す治療法の一つです。

副作用の報告は少なく、安全性が高いと考えられていますが、新しい治療である以上、十分な説明と同意のもとで進めていくことが重要です。

参考文献
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