【院長ブログ】iPS細胞がいよいよ治療薬・治療法として届くステージに

iPS細胞の研究が進み、いよいよ私たちの手元に治療薬・治療法として届くステージに入りました。

本日、非常に画期的なニュースが飛び込んできました。大阪大学発のベンチャー企業「クオリプス」が開発したiPS細胞由来の心筋シート、および住友ファーマが開発した「パーキンソン病向け細胞製品」が、厚生労働省によって世界で初めて承認される見通しとなったのです。

今回のブログでは、このニュースが心臓病やパーキンソン病に悩む方々にとってどのような意味を持つのか、そしてiPS細胞による再生医療の未来について、医療に詳しくない方にもわかりやすく解説します。

iPS細胞の「実用化」とはどういうことか?

「iPS細胞」という言葉は、山中伸弥教授がノーベル賞を受賞されて以来、多くの人が耳にするようになりました。どんな細胞にもなれる「万能細胞」として期待されてきましたが、これまではあくまで「研究」や「治験(テスト)」の段階にありました。

今回のニュースの最大のポイントは、この技術が

「研究室の中のもの」から、国の承認を受けた「一般的な治療の選択肢」へと変わる第一歩を踏み出したという点

にあります。

これまで心臓病やパーキンソン病の重症患者さんは、既存の薬や手術で改善が見込めない場合、臓器移植などを待つしかありませんでした。しかし、今回の承認によって、iPS細胞から作った「生きた細胞」を移植するという、全く新しい治療法が病院で受けられる道が開かれたのです。

心臓を「貼り薬」で治す?―iPS細胞由来の心筋シート

今回、特に注目されているのが、重い心不全(虚血性心筋症)を対象とした治療法「リハート(商品名)」です。


心不全とは、心臓の筋肉がダメージを受け、ポンプとしての役割が果たせなくなる病気です。一度死んでしまった心臓の筋肉は、自分自身の力では元に戻ることができません。これに対し、

今回承認される技術では、他人のiPS細胞から「心臓の筋肉の細胞(心筋細胞)」を作り出し、それを薄いシート状に加工します。このシートを心臓の表面に直接貼り付けるのです。

シートを貼ることで期待される効果は、単に心臓を補強するだけではありません。貼り付けられた細胞が、心臓を元気にする物質(成長因子など)を放出し、弱った心臓の血管を再生させたり、動きを助けたりします。
これまでは「心臓移植しか助かる道がない」と言われていた患者さんにとって、このシート移植は大きな希望の光となります。また、心臓移植は圧倒的なドナー不足という課題を抱えていますが、iPS細胞ならあらかじめ大量に作っておくことができるため、必要な時に多くの患者さんに提供できるという大きなメリットがあります。

パーキンソン病への挑戦―脳に細胞を届ける「アムシェプリ」

もう一つ、同時に大きなニュースとなったのが、住友ファーマによるパーキンソン病の治療製品「アムシェプリ」です。
パーキンソン病は、脳内の「ドーパミン」という物質を作る神経細胞が減ってしまうことで、手足の震えや体のこわばりが起こる難病です。従来の治療は、足りないドーパミンを薬で補うのが主流でしたが、病気が進むと薬の効果が薄れてしまうことが課題でした。

今回の再生医療では、iPS細胞から「ドーパミンを作る神経細胞」のもとを作り、それを脳の特定の場所に直接移植します。いわば、脳の中に「ドーパミン工場」を新設するようなイメージです。

これにより、根本的な症状の改善が期待されており、長年病気と付き合ってきた患者さんの生活の質(QOL)を劇的に向上させる可能性があります。

他家由来のメリットと拒絶反応への対策

今回の心筋シートや神経細胞製品は、患者さん自身の細胞ではなく、あらかじめ用意された他人の細胞から作る「他家(たか)由来」の製品です。ここで気になるのが、「拒絶反応」というデメリットではないでしょうか。

本来、私たちの体には、自分以外の細胞が侵入してくると「異物」とみなして攻撃し、排除しようとする免疫機能が備わっています。そのため、他人の細胞を移植すると、体がそれを受け入れようとしない拒絶反応が起こるリスクがあります。
この課題を克服するために、現在の再生医療では主に2つの対策が取られています。

1つ目は、「免疫抑制剤」の適切な使用です。
臓器移植などでも使われる手法ですが、移植後の一定期間、免疫の働きを適度に抑える薬を服用することで、体が新しい細胞を攻撃するのを防ぎます。

2つ目は、「免疫拒絶が起こりにくいiPS細胞」の選定です。
日本には、多くの日本人に拒絶反応が起きにくい特殊な免疫型(HLA型)を持つドナーから作られた「iPS細胞ストック」という仕組みがあります。あらかじめ「拒絶されにくい細胞」を厳選して製品化しているため、リスクを最小限に抑えることが可能になっています。

また、将来的にはゲノム編集技術を用いて、免疫攻撃を完全に回避する「ユニバーサルiPS細胞」の研究も進んでおり、さらに安全で使い勝手の良い治療へと進化し続けています。

なぜ「世界初」が日本で実現したのか

今回の承認が「世界初」であることは、日本の科学技術と制度の進歩を象徴しています。
日本には、再生医療を早期に実用化するための「条件付き早期承認制度」という仕組みがあります。これは、有効性が推定され、安全性が確認されれば、限られた症例数でもまずは承認を出し、実際に使いながらデータを集めていくという制度です。

「早く患者さんに届けたい」という研究者の想いと、それを支える国の制度が噛み合った結果、日本がiPS細胞の実用化で世界をリードすることになったのです。

私たちの医療はどう変わるのか

「iPS細胞の治療が承認された」と聞くと、明日からどこのクリニックでも受けられるように感じるかもしれませんが、実際には慎重に進められます。
まずは大学病院や専門の設備を整えた大規模な医療機関から導入が始まり、徐々に実施できる施設が増えていくことになります。また、治療費についても、公的医療保険が適用されるかどうかが非常に重要なポイントとなります。
今回のニュースは、心臓病やパーキンソン病の治療だけでなく、他の多くの病気に対する再生医療にも波及していくでしょう。例えば、脊髄損傷、目の病気、肝臓病、さらにはがん治療など、iPS細胞の応用範囲は無限に広がっています。

再生医療が「当たり前」になる時代へ

今回のiPS細胞由来製品の承認ニュースは、医療の歴史において大きな転換点となります。かつては治らないと諦めていた病気が、細胞を「補う」「入れ替える」ことで治せるようになる時代が、すぐそこまで来ています。
当クリニックとしても、こうした最新の医療情報を常にアップデートし、皆様に最適な医療のあり方を提案できるよう努めてまいります。
iPS細胞の技術は、これから数年、十数年かけてさらに身近なものになっていくでしょう。最新の研究成果が、一日も早く、多くの患者さんの笑顔につながることを願って止みません。
病気についてのご相談や、再生医療の現状について詳しく知りたい方は、どうぞお気軽に当院までお問い合わせください。皆様の健康な未来を、最新の医学とともに支えていきたいと考えています。

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